はじめに

2007/12/31まで、ツアープロや競技アマなど一部エリートゴルファーを対象にしていた高反発クラブの使用を禁止するスプリング効果規制ルール(SLEルール)が、2008/1/1以降は我々アマチュアを含む全てのゴルファーへ対象範囲を広げ正式にゴルフ規則本則に盛り込まれました。ゴルフ規則(Rules of Golf)には、付属規則Ⅱ クラブのデザイン 4 c に以下のように明記されています。

4 c スプリング効果と動的特性

クラブヘッド(クラブフェースを含む)のデザイン、材質そして(あるいは)構造、また処理は:
(i)ペンデュラムテストプロトコル(R&Aテスト内規)に定められている上限を超えるスプリング効果を持ってはならない。
(ii)独立したスプリングやスプリング特性(これらに限定されない)などのようなクラブヘッドのスプリング効果に不当に影響を与える意図、あるいは効果を有する機構や技術を組み込んではならない。
(iii)球の動きに不当に影響を与えてはならない。
注:上記(i)はパターには適用されない。
付属規則Ⅱ クラブのデザイン

SLEとは英語の "Spring Like Effect" の略で、日本では 一般的に"スプリング効果"と表現されています。フェースのトランポリン効果という表現を聞いたことがあるかもしれませんがこれも同じことを表現しています。スプリング効果とは、ボールをヒットする際、クラブフェースが一度たわみ、その反作用でボールを弾き飛ばず物理的作用のことを言います。チタン製のヘッドが主流となりつつあった1990年代後半より、フェースをより薄く広く、より柔軟性のある素材を使用することでこの効果を増大させ飛距離アップを狙った多くのモデルが開発されるようになり、特にプロツアーにおいて年々ドライバーの平均飛距離が大きく伸びました。

sle_pics

我々アマチュアにとってはプロの300ヤードショットを見るのは楽しみの一つですが、一方において、パー4での第2打にウェッジを多用し楽々パーオンする場面を見て物足りなさを感じた方も少なくないと思います。本来のゴルフゲームの面白さをそぐ、この様な状況を憂慮し、これを抑制することを主な目的としてSLE(高反発)ルールが制定されました。これにより規定値(CT値257us ±18us)を超える反発力をもつクラブを使用した場合はルール違反と見なされることになりました。(ただし、フェースの反発力向上は、飛距離増加の原因の1つにすぎません。クラブヘッド容積、慣性モーメントの増大、クラブヘッドデザインの最適化、シャフトやゴルフボールの進化などの相乗効果により平均飛距離が大きく伸びました)


ただ、SLEルール制定についての協議をはじめた当初のR&A(ロイヤル&エインシェントGC)とUSGA(全米ゴルフ協会)間のルールに対する意志統一の乱れや、ルールの段階的実施、また適合・不適合の2つのリストの存在など諸々の事情から、SLEルールは我々一般ゴルファーにとって非常に分りにくいものになっているように思います。ネット上でもルールについて様々な意見や解釈が散見され一般ゴルファーの中には、これらを鵜呑みにすることでルールを誤って理解されていたり、混乱されている方も少なくないのではないでしょうか。


このような状況を考慮し、このサイトでは個人の思惑や推測を極力排除し、JGA(日本ゴルフ協会)の正式見解を元に2008/1/1施行のSLEルールを出来る限り詳細かつ明確な解説をすることを試みました。そのためにSLEルール関連のJGA発行書類を出来る限り入手し、複数の書類を付き合わせながら事実を確認していきました。それでもいくつか疑問点が残り、R&AやJGAに問い合わせを行い疑問点をクリアにしました。このような手順を踏みこれまでに纏め上げた内容をこれから数回にわたり順次ご紹介いたします。



※なお、文中にR&A(ロイヤル&エインシェントGC)USGA(全米ゴルフ協会)JGA(日本ゴルフ協会)、などのゴルフ団体の名称が出ていますがこれらの関係性についても後ほど別途書いてみたいと思います。少し簡単に説明すると、世界にはゴルフルールを統括する団体が2つ存在します。イギリスに本部があるR&A(ロイヤル&エインシェントGC)と、アメリカに本部があるUSGA(全米ゴルフ協会)、がそれらです。その他世界各国ゴルフが盛んな国ごとに団体がありますが、それらはR&A、USGAのいずれかの傘下団体として活動しています。ちなみにJGA(日本ゴルフ協会)R&A傘下であり、基本的にJGA見解はイコールR&A見解と捉えて問題ありません。